肥満と薄毛、一見すると別々の悩みのように感じられますが、実は私たちの体内で密接に関連し合っていることが、近年の研究で明らかになりつつあります。なぜ体重が増えると、髪の健康まで脅かされてしまうのでしょうか。そのメカニズムを詳しく見ていきましょう。まず、肥満は体内のホルモンバランスに大きな影響を与えます。脂肪細胞は、単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、様々なホルモンを分泌する内分泌器官としての役割も持っています。肥満になると、脂肪細胞から分泌される女性ホルモンの一種であるエストロゲンの量が増加する傾向があります。男性の場合、このエストロゲンの増加は、男性ホルモンであるテストステロンとのバランスを崩し、テストステロンがより強力な脱毛作用を持つジヒドロテストステロン（DHT）へと変換されるのを促進してしまう可能性があります。DHTは、毛乳頭細胞にある男性ホルモン受容体と結合し、毛母細胞の増殖を抑制することで、髪の成長期を短縮させ、結果として薄毛を引き起こすと考えられています。これが男性型脱毛症（AGA）の主なメカニズムの一つです。次に、肥満は慢性的な炎症状態を引き起こしやすいとされています。脂肪細胞、特に内臓脂肪が増加すると、TNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインと呼ばれる物質の分泌が活発になります。これらの物質は、全身に微細な炎症反応を引き起こし、頭皮の毛包周囲にも影響を及ぼす可能性があります。毛包周囲で炎症が続くと、毛母細胞の正常な働きが妨げられ、健康な髪の成長が阻害されてしまうのです。さらに、肥満はインスリン抵抗性を引き起こすリスクを高めます。インスリン抵抗性とは、インスリンの働きが悪くなり、血糖値を下げる効果が十分に得られなくなる状態のことです。これが進行すると2型糖尿病を発症する可能性があります。インスリン抵抗性や糖尿病は、血管の健康を損ない、血行不良を招きやすくなります。頭皮への血流が悪化すると、髪の毛の成長に必要な栄養素や酸素が十分に供給されなくなり、毛髪の質の低下や抜け毛の増加につながることが考えられます。また、肥満の背景には、高脂肪・高カロリーな食事や栄養バランスの偏りといった食生活の問題が潜んでいることが多く、これ自体も髪の健康にはマイナスです。